ソーシャルゲームで人は時間の買い物をしている(ネトゲ廃人 - 芦崎治)

ゲームからゲーミフィケーションだけを取り出してソーシャルゲームが出来てるんじゃないか、と以前書きましたが、逆にソーシャルゲームにしか無いものもあるだろう、と言う話です。それってなんでしょう。僕は「時間を買うこと」だと思っています。


先週「ネトゲ廃人」と言う本を読んだのでその感想を書こうと思ったら、ちょうどこんな記事が出ていました。

なかなか過激なタイトルです。ソーシャルゲームコンプガチャ問題などが最近話題ですが、儲けるためには一部の超重課金ユーザ(=廃人)を増やすのが儲けのポイントですね、って話。廃人、と言う言葉の本来の意味は置いておいて、ここでは「ネトゲ(ネットゲーム)にハマりまくる人」のことをこう呼んでおきます。

ちなみにネトゲってなんなの?と言う方のために有名なゲームを書いておきますね。

ゲームにハマる人たちのリアリティ

ゲームをやらない人からしてみると、普通のゲームにしろネットゲームにしろソーシャルゲームにしろ、なんでそんなものに時間やお金使いまくるのか理解出来ないと思います。本では、そういうゲームについついハマってしまった人たちの実体験が割とリアルに描かれています。ただ「なぜハマるのか」について個人の心理や背景についての記述はありますが、構造としては踏み込んだ考察はあまり無いので、とりあえずハマる人たちの心理を見てみたい人向けかなと。

ネトゲソーシャルゲームの違い

ネトゲの歴史は古くて、実は10年以上前から存在しています。多人数でオンラインの世界にログインして、その中を走り回るキャラクターは全部人間に操作されてるなんてすごい!みんなで冒険出来るとか超楽しい!と、90年代のRPGをプレイしながら夢見た世界がそこにあったので、それはそれは僕もハマった記憶があります。

ただ当時最初は「ゲーミフィケーション」もそこまで洗練されてはいなかったので、運営会社の利益も基本は「ゲームの基本料金」でした。なので継続してユーザにプレイしてもらうために、長く遊べるようなゲームのストーリーやイベントが用意されていて、その辺までは古き良き「ゲーム」だったと思います。そういう意味では今のソーシャルゲームよりずいぶん平和だったのかもしれません。

ちなみに今となっては、ネトゲソーシャルゲームのビジネスモデルとさほど変わらないです(=有料アイテムやガチャが基本的な収益源になっている)。でも両者の市場規模が大きく違うのは、ネトゲは基本ハイスペックなPCが必要&コアゲーマー向けのゲームだったのに対して、ソーシャルゲームはケータイやスマートフォンと言う誰でもプレイ出来るハードルの低さがあった、と言う違いでしょう。

そしてソーシャルゲームネトゲで培われた「ゲーミフィケーション」がうまく生かされています。多くの人間を同じオンライン上の空間で競い合わせ(あるいは共存させて)、その世界にいかに長く留まらせ、そしてアクションさせるか。そのノウハウ、科学がネトゲゲーミフィケーションなのでしょうね。そういう意味ではソーシャルゲームは、ネトゲの携帯端末に不必要な部分(画面、音楽のクオリティ、ストーリー性、複雑なゲームシステムなど)を捨てて、その延長上に誕生したものとも言えるかも知れない。

ソーシャルゲームで時間を買う人々

先月の記事でソーシャルゲームってなんかプチプチみたいですよね。という話を書いたら、結構反響を頂きました。言いたかったのは「ゲームからゲーミフィケーションだけ取り出したとしても、それはゲームとは言えないんじゃないか」と言う話です。

上にネトゲ(ゲーム)の不要な要素を取り除いてソーシャルゲームになってると書きましたが、逆にソーシャルゲームにしか無いものもあると思います。一番大きなものを挙げるならば「時間の拘束性」ではないでしょうか。

ネトゲ廃人」にも書かれているようにネトゲや一般的なゲームは ハマる=長時間連続プレイする と言うことを指すのに対して、ソーシャルゲームは ハマる=重課金する と言う状態になっています。これって変だと思いませんか?なぜどちらもハマるという状態になっているのに、かたや時間を使い、かたやお金を使うのでしょうか。

答えはこれだと思います。「どちらもハマる=長時間プレイする だが、ソーシャルゲームは長時間プレイするためにお金がかかる」(=お金をかけないと長時間連続でプレイできない)

やったことがある人なら分かると思うのですが、ソーシャルゲームは24時間ぶっ通しでプレイすることは普通出来ません。体力が持たないからとかそういうことではなくて、普通は「次に行動できるまで2時間待ってね」とか、待ち時間が発生する構造になっているのですよね。これによって「ひたすら時間をかければ上級者になれる」という、従来のネトゲで成立していた廃人量産構造を見事に崩しています。

では、どうすればソーシャルゲームで上級者になれるのか。ゲームとしては単純なので結局のところは「長時間プレイする」のが唯一の上級者への道になります。でも、長時間プレイするにも2時間待たないといけない。。2時間後って昼休み終わってるじゃん…でもこの100円のアイテム使ってすぐにプレイ出来るようになるなら買っちゃえ!と、簡単に言うとそういう構造じゃないでしょうか。(あとはガチャですか)

ゲームを面白いと思ってハマる(=長時間プレイする)のに際して「好きなだけやりなさいよ」と言うネトゲに対し、「やりたいならお金払いなさいよ」と言うソーシャルゲーム。この辺が一番大きな違いであり、ビジネスとして大きく成功(?)している要因じゃないかなと思います。

ちなみにネトゲでも「課金アイテム買ったら経験値貯まる速度が2倍になります!」と言う仕組みがあったりするのですが、それはあくまで「2倍」とか「3倍」とかそういう世界。でもソーシャルゲームは2時間待って1分しかゲーム出来ないとすると、有料アイテムの価値は乱暴に言うと「120倍」に見えるかもしれない。こう見るとものすごく高価値な気がしますね。その自分にとってとても価値のある「時間」に対して、ソーシャルゲーマーはお金を払うのでしょう。

自分にとって楽しい(惜しい?)「時間」をソーシャルゲームと言う市場の中で買っていくプレイヤー達。それによって成り立つソーシャルゲームのビジネス。言い換えるとソーシャルゲームプラットフォーマーは、みんなに等しく流れている「時間」を換金化する仕組みを持っている、錬金術師みたいなもんですね。

でも錬金術って言うのは等価交換だと僕は思います。この場合いったい何がお金に変わっているんだろうか。。それはいずれ明らかになると思います。(毎度書きますが別にソーシャルゲームが嫌いなわけじゃなくて、僕は僕が好きな種類のゲームが今後もいっぱい出てくる事を期待しているだけです。)


「つまり錬金術の基本は『等価交換』!!何かを得ようとするならそれと同等の代価が必要って事だ」 - エドワード

鋼の錬金術師(1) (ガンガンコミックス)

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ハリウッドの映画や推理小説に存在価値があるようにゲームにも存在価値がある。面白いものを持っていることは、人間にとって支えになる。 - 著者

ネトゲ廃人 (新潮文庫)

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